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黄昏ヴォヤージュ

路地裏の最果て 創作の行く先 内なる欲望の納まる場所
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はしのうえから
橋の上というのは全くもって落ち着く場所だ…

辺りは夕暮れに包まれ、橋の下を流れる運河には夕日が放つ金色の光が反射していた。


私はいつもの時間、いつものこの橋の上で、いつもの黄昏を感じていた。
仕事帰りのこの時間帯が、黄昏を感じるには最高の環境だった。狭い運河の向こうの空では、沈む夕日が、この街の密集した家々を金色に染めている。
私は間もなくやってくるであろういつもの青年の事を思い出した。

8年前、私は遠い日本からこの街、ヴェネチアに越してきた。
理由はただ一つ、運河だった。
昔からこのヴェネチアに魅せられていた私は、景色が素晴らしいという、本当にそれだけの理由で、両親の反対を押し切り、日本を脱出した。当初は言葉も通じず波乱な生活をしてきたが、8年経った今ではこうして仕事をし、満足な生活を送っている。
それでも、やはり人間。仕事のこと、人間関係…嫌な事もある。

そんなとき、この橋に出会った。
やつれきった私の心を、橋が包み込んでくれるようだった。

私はそれからというもの、仕事帰りには毎日この橋に会いに行く。
人通りがぱったりと途切れる黄昏時に、私は夕日が沈み、辺りが街灯のオレンジ色の光に包まれるまでをこの橋の上で過ごすのだ。
私はそんな、静かで一人の時間を愛していた。

それがつい二週間前ほどから、私一人の時間はその限りではなくなってしまった。
二週間ほど前、私はいつものように黄昏を感じていた。

辺りが薄暗くなって、ちょうどオレンジ色の街灯が灯り始めた頃だった。
「こんばんは」
私がコーヒー缶を開けて橋の欄干にもたれ掛かっていると、不意に後ろから声をかけられた。振り向くと、まだ若いであろう、栗毛の青年がにこやかに佇んでいた。
「いつもここに居ますよね」
彼は穏やかに話し掛ける。私がいつも見られていたのだろうかと考えつつも、えぇ、と答えると、
「僕もこの橋から見る風景が大好きなんです、仲間ですね」と柔和な笑顔を見せた。
「この街の黄昏は特に素晴らしい」
私はその事に同感を示した。確かに、この街の黄昏は、他のどんな場所のそれよりも美しい。でも、と彼は俯いた。「もうすぐそれも叶わなくなる」
俯いた悲しげな表情とは裏腹に、あまりにも明るい声だったものだから、私にはそれが悲しいことなのか、それとも嬉しいことなのかがとっさには分からなかった。
私の表情を察してか、青年は穏やかに笑うと言った。
「明日から、用があって、この街を離れなければならなくなってしまったんです」今度は、少しばかり寂しさを含んだ声で呟いた。
「きっと、今夜が最後でしょうね」
私は空を仰いだ。先程までの薄暗さは消え、星が瞬いていた。紺色のビロードに、スパンコールをちりばめたような、見事な星空だった。
後ろで、青年がため息を漏らす音が聞こえた。「もう少し早くあなたに出会っていれば良かったのに」栗色の頭は呟いた。「もっと色んな事を話せたかも知れないのに」
私も同じだった。誰かとこの橋を共有したいと思ったのは一度や二度ではない。
いつも一人で居たのは、ただ他人に呆れられただけ。橋の上が心地良い?馬鹿馬鹿しい、そんな事を言われては毎晩をこの橋で過ごしていた。
「私も、早くあなたに出会っていれば良かったかも知れない」私の微かな声は、ランプの光に溶けるように消えていった。ビロードの空に、小さなスパンコールが流れた。

それが、彼を見た最後だった。




次の日の夕方も、私はいつもの如く、橋の上にいた。今日は朝から疲れた。仕事場に行くと、社内は社長の一人息子の話で持ち切りだった。なんでも、20代の若さで病に倒れ、昨日の夜に亡くなったそうだ。その息子は亡くなる前に一言呟いたそうだ。「はしのうえをわすれない」と。
二週間も前の事なのに、つい昨日の事のように感じる。私はあの日出会った青年の事を思い出した。思い出して、呟いた。
「私も、忘れない」


今日も綺麗な黄昏だった。辺りは薄暗く、ガス灯が灯りはじめている。もうじき闇が迫ってくるだろう。私は空を仰いだ。ビロードの空に、スパンコールが瞬いていた。


……あとがき
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黄昏ヴォヤージュとは
管理人・颯乃が気の向くままに創作小説やら世界設定やらキャラやらを更新していくブログです。
基本的に無法地帯です。
日記的要素は皆無です。
おまけに超亀更新です。
多分そのうち消えます。

創作のジャンルは様々ですがカテゴリは作品別に分けておきます(予定)


なにか有りましたらコメントで何なりと。
誹謗・中傷以外はレスします

あとは管理人の自己偏見で運営しています。
興味を持ったちょっと変わったあなた(超失礼)はどうぞ気長に更新をお待ち下さい。
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